あなたの「のど」は衰えていませんか?
◎「のどの筋力の衰え」と「ラクナ梗塞」の予防が鍵!
最近、「誤嚥性肺炎」という言葉をメディアでよく見かけるようになりました。
誤嚥性肺炎は高齢者がかかりやすい肺炎の一種で、厚生労働省の『人口動態統計(令和元年)』によれば、日本人の死因の第6位という怖い病気です。
その実態や予防法について知っておきましょう。
「誤嚥」とは、飲食物、唾液、あるいは逆流した胃液が食道ではなく、気管や肺に入ってしまうこと。
それらに含まれていた肺炎球菌や歯周病菌などの病原体によって引き起こされる肺炎が、誤嚥性肺炎です。
では、なぜ誤嚥が起こるのでしょう?
のどは、「空気の通り道(気道)」と、「食道へと続く飲食物や唾液の通り道」が交差する部位で、その分岐点には「喉頭蓋(こうとうがい)」という小さな軟骨の板がくっついています。
飲食物や唾液をゴックンと飲み込む(=嚥下(えんげ))ときは、肺へと続く気管に入ってしまわないよう、この板がパタンと倒れて気管にフタをしてくれます。
ところが、加齢とともにのどの筋力が衰えてくると、このフタがうまく閉まらず、気管に入ってしまうことがあります。
たとえ気管に異物が入っても、私たちの体には咳をして吐き出す「咳反射」などの防御システムが備わっていますが、加齢で呼吸筋も衰えるため、これもうまく働きません。
また、誤嚥は動脈硬化が進行してできる、ごく小さな脳梗塞「ラクナ梗塞」によっても起こります。
ラクナ梗塞が大脳の基底核(きていかく)という神経細胞の集合体にできると、嚥下や咳反射の機能が低下してしまいます。
つまり、誤嚥性肺炎を防ぐには、“のどの筋力の衰え”と“ラクナ梗塞”を予防することが大切なのです。
誤嚥には、本人が自覚できる「顕性(けんせい)誤嚥」と、睡眠中など気づかないうちに唾液が気管に流れ込んでしまう「不顕性(ふけんせい)誤嚥」があり、誤嚥性肺炎の原因で多いのは後者です。
「食べ物をうまく飲み込めるから、自分は大丈夫」という方も、まずは、次の「飲み込む力セルフチェック」をしてみましょう。
◎のどの衰えは、セルフケアで防げる!
誤嚥性肺炎は60代から顕著に増えていきます。
のどの筋力の衰えは40代から始まり、放置すると衰える一方ですが、トレーニング次第で衰えるスピードを緩やかにすることもできます。
会話や音読で積極的に声を出したり、口を開けて舌を大きく動かす運動をして、鍛えていきましょう。
同時に食事や運動などの生活習慣を見直し、ラクナ梗塞の原因となる動脈硬化を防ぐよう心がけましょう。
ほかにも、実践していただきたいことがあります。ひとつは口腔ケアです。
誤嚥性肺炎の多くは口の中に潜む肺炎球菌や歯周病菌などの細菌が主な原因菌です。
起床後、朝食・昼食・夕食後、就寝前に歯みがきなどの口腔ケアを行い、口の中の悪玉菌を増やさないようにしましょう。
もうひとつは「肺炎球菌ワクチン」の接種です。誤嚥性肺炎を含む細菌性の肺炎でもっとも多い原因菌は、肺炎球菌です。
そのため、2014年以降、65歳以上の高齢者の肺炎球菌ワクチン接種に対し、各自治体から助成が出るようになりました(※)。
健康長寿を目指す高齢者にとって、誤嚥性肺炎は「最後のハードル」といっても過言ではありません。積極的に予防しましょう!
※肺炎球菌ワクチンには、結合型ワクチン(プルベナー)と多糖体ワクチン(ニューモバックス)の2種類があり、後者は65歳以上の方の場合、各自治体から助成が受けられます。日本呼吸器学会では、両方を接種するよう推奨しています。まずはかかりつけ医などにご相談の上、各自治体にお問い合わせください。
※記事の内容は取材当時(2021年)のものです。
大谷 義夫 (おおたに よしお)
2005年に東京医科歯科大学呼吸器内科医局長に就任。
米国ミシガン大学留学などを経て、2009年に池袋大谷クリニックを開院。
全国から患者が訪れる呼吸器内科のスペシャリスト。
『絶対に休めない医師がやっている最強の体調管理』、『肺炎を正しく恐れる』(日経BP)など著書多数。