近年、日本で患者数が増加している「加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)」という目の病気はご存知でしょうか?
加齢とともに発症するリスクが高いこの病気は、誰にでも起こりうるものです。
年に1度はセルフチェックを行い、病気の予防をしましょう!
モノがゆがんで見える 見たいところが見えなくなる
加齢にともなって増える目の病気の代表といえば、白内障・緑内障・加齢黄斑変性の3つです。このうち、白内障と緑内障はよく知られていますが、加齢黄斑変性については「よく知らない」という方も多いのではないでしょうか?
加齢黄斑変性は、欧米では成人の失明原因の第1位です。日本人には比較的少ないと考えられていましたが、食生活の欧米化や超高齢化を背景に患者数が増え続けており、現在、日本人の失明原因の第4位。50歳を過ぎると発症する可能性が高くなっています。
では、加齢黄斑変性とは、具体的にどんな病気なのでしょう?
私たちの目の網膜のほぼ中央には、「黄斑」という部位があり、文字を読んだり、モノの大きさや形、色、距離などの情報を識別する役割を果たしています。この黄斑が加齢とともに変化し、発症する疾患のひとつが加齢黄斑変性です。
初期段階の主な症状は、視野の中心、つまり「見ようとするところ・見たいところ」がゆがんで見えるというもので、人によっては視野の中心が暗く見える、欠けて見える、ぼやけるなどの症状が出ることもあります。
さらに進行すると視力が低下し、文字が読めない、人の顔を見分けるのが困難になるなど、たとえ視力が完全に失われていなくても、日常生活に支障をきたすようになります。
このような状態を、「社会的失明」と呼びます。
■黄斑とは・・・黄斑は、網膜の中央の直径6mm 程度の部分。視細胞が集結している「視覚の中枢」です。
生活習慣が原因!予防はもちろん早期発見・早期治療が大切です
加齢黄斑変性は、基本的に片方の目から始まります。ところが、私たちはふだん両方の目を使って見ていますから、もう一方の目で得られる情報で補ってしまい、症状に気づかないことも珍しくありません。
そこで、早期発見のためには、片目だけの見え方をセルフチェックすることが大切です。「アムスラーチャート」(下図)を片目ずつで見て、ゆがんで見えるようなら、少なくとも黄斑に変性がある症候です。すぐに眼科で受診しましょう。
■ 加齢黄斑変性をセルフチェック!
「アムスラーチャート」
●片目ずつ中心の白い点を見てみましょう。
●老眼鏡やコンタクトレンズを使用している場合は、つけたまま見てみましょう。
格子の線がゆがんで見えませんか?
以下のように見える場合は、早めに眼科で受診してください。
加齢黄斑変性には「滲出(しんしゅつ)型」と「萎縮(いしゅく)型」の2つのタイプがありますが、日本人の場合、ほとんどは急速に症状が進行して視力が低下していく「滲出型」。以前は有効な治療法がありませんでしたが、2004年にある程度進行を抑えることができるようになり、さらに2009年には抗VEGF療法※が登場して、初期であれば進行を抑えるだけでなく、視力の改善効果を期待できるようになりました。
※抗VEGF療法:加齢黄斑変性の原因となる脈絡膜新生血管は、血管内皮増殖因子(VEGF)というたんぱく質によって成長が促進される。その働きを抑える抗VEGF薬を定期的に注射で直接注入するのが、抗VEGF療法。
ただし、抗VEGF療法も病気が起こる仕組みそのものを治すことはできません。加齢黄斑変性の発症や進行には、体内を酸化させる食事などの生活習慣が大きく関わっています。アメリカの研究によれば、抗酸化作用のあるビタミンC、ビタミンE、亜鉛、そして黄斑部に集中的に存在する色素成分ルテインを毎日摂取することで、加齢黄斑変性の発症率が約25%下がることがわかっています。
普段の食事に緑黄色野菜や魚介類などを積極的に取り入れるとともに、必要に応じてサプリメントも活用し、これらの栄養素をしっかり摂るようにしましょう。
また、一番いけないのは喫煙です。ぜひ禁煙しましょう。
※記事の内容は取材当時(2020年)のものです。
飯田 知弘 (いいだ ともひろ)
東京女子医科大学 眼科学講座 教授・講座主任 医学博士。
1985年、新潟大学医学部卒業。2000年、マンハッタン・アイ・イヤー & スロート病院へ留学。帰国後、群馬大学医学部眼科助教授、福島県立医科大学医学部眼科学教授を経て、2012年より現職。日本眼科学会常務理事、日本網膜硝子体学会理事、日本眼循環学会理事。専門領域は黄斑疾患、網膜硝子体疾患。日本における加齢黄斑変性の最先端診断・治療の第一人者。『蛍光眼底造影ケーススタディ エキスパートはFA・IA・OCTAをこう読み解く』(医学書院) など著書多数。